薬価改定による先発品医薬品の薬価が後発品と同等となったときの影響について

レポート

当社(日本システム技術株式会社 以下、JAST)では、独自に保有している匿名化済の診療報酬明細書(以下、レセプト)データを中心とした医療関連データを基に、調査を行った結果について紹介します。

日本では、医療用医薬品の価格について、製薬企業ではなく国が定める「薬価制度」をとっています。 一度定められた医薬品の薬価は定期的な見直しが行われます。 この価格の見直しを「薬価改定」と呼び、原則として改定の度に薬価は引き下げられます。

この薬価改定により先発医薬品の値段が後発医薬品の値段と同等になる事態も発生します。 その時に先発品、後発品の使用率がどうなるかをムコスタ(レバミピド)を例にレセプトデータから調査しました。

・ムコスタ(レバミピド):胃炎、胃潰瘍治療薬。2022年4月の薬価改定で後発品と同額の1錠10.1円。 ムコスタ錠100mg(先発)とレバミピド錠100mg(後発)

【集計条件】
・調査対象: JASTの保有するレセプトデータ(約880万人 2023年9月時点)の内、薬価改定前(2021年1月‐2022年3月)と薬価改定後(2022年4月‐2023年5月)のデータ

ムコスタ錠100mg(先発)とレバミピド錠100mg(後発)が処方された調剤レセプト
薬剤選定参考:KEGG 商品一覧:レバミピド
※ 顆粒20%は対象から除外
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=D01121


 

 目次
 1 | 診療年月別
 2 | 性年齢別

 

 1 | 診療年月別


ムコスタ錠100mg(先発品)とレバミピド錠100mg(後発品)が調剤で処方されている処方数量の割合を診療年月別に集計しました。

薬価改定により先発品の薬価が2022年4月に10.7円から10.1円に引き下げられ後発品と同額になりました。 薬価改定の2022年4月がカットオフとなり、その前後の観測値を比較することで薬価改定による因果効果の推定が可能となります。

薬価が後発品と同額の1錠10.1円となった2022年4月を境に先発品の処方数量比が大きく増えています。 2022年4月の薬価改定後の4月以降も8月まで増加傾向が続きその後やや落ち着くといった傾向がみられます。

一方、後発品のほうは、2022年4月の薬価改定後に処方数量比が下がるなどの影響は見られないといえそうです。

2021年4月に薬価が11.8円から10.7円に引き下げられたとき(-1.1円)は処方数量比に変動がほとんど見られませんが、2022年4月の10.7円から 10.1円への引き下げ時(-0.6円)に大きく処方数量比が増えています。 薬価引き下げの値段ではなく、後発品と同額になることが処方数量比の増大のトリガーとして大きいと考えられます。

【図1】先発品・後発品の診療年月別薬剤処方数量比

先発品医薬品と後発品医薬品の処方量の比を診療年月ごとに可視化しました。
2022年4月の薬価改定後に先発品医薬品のシェアが2022年6月まで増え続けている様子が見られます。薬価改定前の2022年3月と処方数量比の変動が安定する2022年6月の比較で約3.3%先発品医薬品のシェアが上がっています。

【図2】先発品・後発品の処方数量比(シェア)

 2 | 性年齢別


先発品の処方数量比が薬価改定後に増える様子が確認できましたが、性年齢別ごとにどのような違いがあるか見ていきます。

40~59歳の層が男女ともに多く使われているようです。 どの性年齢層も2022年4月の薬価改定後に増加する傾向が見られ、処方数量の多寡はありますが特定の性年齢層によって増加傾向に大きな差異があるということはなさそうです。 使用率の低い0~19歳についても2022年4月の薬価改定後に他と同様の増加傾向が見られます。

【図3】先発品の性年代別の診療年月別薬剤処方数量比

今回はレセプトデータの調剤レセプトから薬価改定による先発品医薬品の薬価が後発品と同等となったときの実態を調査しました。

先発品医薬品の特許が切れ、後発品医薬品が販売されると縮小する認識でしたが薬価改定後に後発品と同じになると使用数量比が大きく増加していました。 また薬価引き下げの値段ではなく、後発品と同額になることが使用数量比の増大のトリガーとして大きいようです。 薬価改定により先発品と後発品が同額となった際の薬剤処方量のデータは製薬企業の流通戦略や製造ラインなどの検討に利用可能かもしれません。 今回は薬剤にムコスタ錠100mg(先発)とレバミピド錠100mg(後発)を選択しましたが、ほかの薬だとどのような結果になるのか調査が必要と考えています。

JASTでは、データヘルス計画の策定支援や事業実施支援の一環として、特定健診の受診勧奨通知や重症化予防事業などのサービスも行っています。 他にも、約880万人分の匿名加工済みのレセプト・健診データ等の医療リアルワールドデータによる地域差分析やペーシェントジャーニーなどアドホックな分析やデータの販売を行っております。

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本件レポート内容に関するお問い合わせ先
 E-mail:rezult@jast.co.jp

  

  

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