【研究レポート】新型コロナウイルス流行が生活習慣病患者の受診行動に与える影響について

レポート

当社(日本システム技術株式会社 以下、JAST)では、独自に保有している匿名化済の診療報酬明細書(以下、レセプト)データを中心とした医療関連データを基に、調査を行った結果について紹介します。

前回のレポート「新型コロナウイルス流行前後での受診行動と医療費の変化について」で新型コロナウイルス流行の影響と考えられる全体的な受診控えを可視化しました。

今回は生活習慣病の中から高血圧、糖尿病、脂質異常症を対象に、治療中断率の推移と薬剤処方日数の影響、医療機関未受診者率について見ていきます。

<調査対象>
JASTの保有する約800万人の名寄せ済みレセプトデータ、および健康診断データ ※2022年5月時点
 

目次
 1 | 治療中断者
 2 | 薬剤処方日数
 3 | 特定健診受診勧奨値超過者の医療機関未受診者率

     

1 | 治療中断者


こちらは生活習慣病患者(高血圧・糖尿病・脂質異常症)を対象に新型コロナウイルス流行前の2019年を基準として同月比を算出しています。
  
2020年5,6月に治療中断者率が2019年比で120%にまで伸びています。
これは第1回目の緊急事態宣言が発令されたこともあり治療を中断する患者が増えたと考えられます。
その後、2020年10月にかけて治療中断率は下がっていき、治療中断していた患者がこの時期に受診を再開しますが、再び治療中断率比は上がっていき2021年3月以降は100%を超え、生活習慣病患者の受診控えが続いていることがわかります。
  
  
【集計条件について】
 対象期間:2019年1月~2021年12月診療情報
 対象疾患:高血圧(I10-I15)、糖尿病(E11-E14)、脂質異常症(E78)のいずれかで受診のあった患者
 対象患者:基準月の6か月間内に対象疾病で受診しているが、3か月前より受診歴のない患者を治療中断者
      として定義
       例)1~3月受診、4~6月未受診となる患者数を6月の治療中断者数とする
 算定方法:治療中断者率(%)= [治療中断者]÷[受診者数]
      2019年の同月を基準として2020年以降の治療中断者率の比を算出
  

【図1】治療中断者率

 
 2 | 薬剤処方日数


次に、新型コロナウイルス流行が高血圧、脂質異常症、糖尿病の薬剤処方日数に対してどのような影響があったかについて見ていきます。
各疾病で処方される薬剤のうち代表的な薬剤をそれぞれ選択し、新型コロナウイルス流行前の一人当たりの処方日数に応じて、3つの患者群に分けて、それぞれの平均値をグラフにしました。
  
どの対象薬剤も、処方日数「30日未満」と「30~59日」の患者群において第1回目緊急事態宣言発令の2020年4月にかけて一回当たり処方日数が増え続け、その後、減ることが確認できました。
新型コロナウイルスの流行中の医療機関受診回数を抑えるため、処方緩和が行われ、その後戻りつつあると考えられます。
  
【集計条件について】
 対象期間:2019年1月~2021年12月診療情報
 対象薬剤:高血圧 アジルバ錠、糖尿病 トラゼンタ錠、脂質異常症 クレストール錠 ※各薬剤1日1回の服薬
 対象患者群:2019年1月~2019年12月までの1回当たりの処方日数の平均値により3群に分ける
        「30日未満」:1回当たりの処方日数の平均が30日分未満
        「30~59日」:1回当たりの処方日数の平均が30日分以上、60日分未満
        「60日以上」:1回当たりの処方日数の平均が60日分以上
 算定方法:2020年1月の一回当たりの処方日数の平均値を基準として、推移比を算出
  

【図2】薬剤処方日数の影響

 
 3 | 特定健診受診勧奨値超過者の医療機関未受診者率


最後に、特定健診の測定値から高血圧、糖尿病、脂質異常症の受診勧奨値超過者を設定し、2019年と2020年の年度ごとの各疾病ごとの医療機関未受診者の割合の推移について見ていきます。
  
全体的にみると高血圧、脂質異常症に比べて糖尿病は未受診となる割合が少ないことが分かります。
新型コロナウイルス流行前の2019年度と流行中の2020年度を比較すると、高血圧の受診勧奨値超過者で未受診者率が微増し、糖尿病・脂質異常症の受診勧奨値超過者で未受診者率が微減していますが、新型コロナウイルス流行中であっても特定健診を受診している方の傾向は大きくは変わっていないように見受けられます。
  
依然として未受診患者は一定数存在しており、今後も受診勧奨値超過者の医療機関への受診勧奨は積極的に実施していく必要があります。
  
【集計条件について】
 対象期間:2019年4月~2021年3月受診情報
 対象患者:受診勧奨値超過者の定義
       高血圧:収縮時血圧140mgHg以上または拡張時血圧90mgHg以上
       糖尿病:空腹時血糖126mg/dl以上またはHbA1c6.5%以上
       脂質異常症:中性脂肪300mg/dl以上またはHDL35mg/dl未満またはLDL140mg/dl以上
      医療機関未受診者の定義
       健診受診日以降6ヶ月以内に各疾病で医療機関を受診していない加入者
 算定方法:未受診者率(%)= [医療機関未受診者数]÷[疾病受診勧奨値超過者人数]
  


 【図3】未受診者率

 

生活習慣病は重症化すると心筋梗塞、脳梗塞などの重大な合併症を引き起こす恐れがあります。これらの対策として、医師や保健師による食事、運動などの生活指導が極めて重要です。治療中断、薬剤処方日数の状況を見ると患者の受診行動や治療に新型コロナウイルスが影響を及ぼしていると考えられます。
  
また、医療機関未受診の状況に関しては新型コロナウイルス流行前後で状況に変化はなく、常に一定数が未受診となっていることが分かりました。新型コロナウイルス流行中などの時世であっても生活習慣病患者および受診勧奨値超過者の通院開始・再開を促す必要があります。
  
JASTでは、医療機関への受診勧奨通知や重症化予防事業などのサービスを行っています。
気になる点、詳しく知りたい点などがございましたら、下記アドレスまでお気軽にお問い合わせください。
  

本件に関するお問い合わせ先
 担当者:平井 雅人
 E-mail:m.hirai@jast.co.jp

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