【レセプト×健診データ】身近な数値から見る認知機能障害の患者実態について

当社(日本システム技術株式会社 以下、JAST)では、独自に保有している匿名化済の診療報酬明細書(以下、レセプト)データを中心とした医療関連データを基に、調査を行っています。

 

今回のレポートでは、老化に伴い引き起こされる症状の一つである「認知機能障害」をテーマに調査いたしました。

 

認知機能障害は、精神疾患の一種とされ、脳の神経に異常が生じることで記憶力や判断力などの脳機能が低下する状態を指します。代表的なものには軽度認知障害や認知症があり、これらは老化、脳血管障害、過度な飲酒、統合失調症、うつ病、脳への外傷などが原因で引き起こされることがあります。

 

一般的に、認知機能障害の発症リスクは加齢とともに高まります。近年では、生活習慣の改善が認知症の予防に繋がるとする呼びかけや、それに関連する研究結果が増加しています。そのため、認知機能障害は生活習慣病の延長線上と見なされることも多くなっています。
参考:健康づくりポータルサイト 14のリスク要因に対処することで認知症の約45%を予防または遅らせることができる!

 

上記の背景より、本レポートでは認知機能障害への理解を深めるために、レセプトデータを用いて認知機能障害の発症率を確認したうえで、生活習慣の指標となる健康診断データとの相関について調査結果をまとめました。

 

※この調査レポートは、リジェネソーム株式会社と共同分析した結果を含んでいます。
参考:エクソソーム研究バイオベンチャー「リジェネソーム」へ出資実行

 

【集計条件】
調査対象:JASTの保有するレセプトデータ(約950万人 2024年1月時点)の内、2023年1月~2023年12月診療、傷病名称に「認知障害」または「認知症」を含むもの(以降、認知機能障害と呼ぶ)、2019年度~2023年度健康診断データ

 
 
 目次
 

  1 | 年代別の認知機能障害発症率

2023年のデータを対象に、年代別の認知機能障害の発症率を分析しました。以下のグラフからは、年代が上がるにつれて認知症の発症率が増加していることが確認できます。特に60代の発症率は50代と比べて約4倍に達しています。一方で、若年層にも一定の発症率が見られ、20代や30代の方にも発症者が確認されています。人数に換算すると2万人に1~2人の割合ですが、発症すると患者本人だけでなく周囲の人々にも影響を及ぼすため、全年代で注意が必要です。

 

 

 
 
 

2 | 健康診断データから見る認知機能障害発症率

年齢とともに発症リスクが増加する認知機能障害ですが、日常生活の中で予防することは可能なのでしょうか。そこで、生活習慣の指標となる健康診断データ(空腹時血糖、γ-GT、中性脂肪、HbA1c、LDLコレステロール、収縮期血圧)を用いて認知機能障害の関連性を調査しました。
※以下のグラフでは、厚生労働省が定める健診数値の正常値、保健指導判定値、受診勧奨判定値を使用しています。

 

■空腹時血糖、γ-GT

 

本調査で認知機能障害の発症率と高い相関が見られたのは、空腹時血糖とγ-GTでした。
これらの数値が悪化するにつれて、認知機能障害の発症率も増加し、どの年代においても同様の結果が見られました。特に、飲酒と関連の高いγ-GTにおいては、40代では健診数値の差が小さいものの、50代、60代と年齢が上がるにつれて、数値が悪い人の発症率が顕著に高くなっています。糖尿病や生活習慣病とも関連するアルコールの過度な摂取が、認知機能の低下に繋がるという研究報告も出てきているため、若いうちから注意することが将来的な認知機能障害の予防に繋がります。

 

■中性脂肪、HbA1c

 

中性脂肪とHbA1cについては、空腹時血糖やγ-GTと同様に、健診数値が悪化するにつれて認知機能障害の発症率が増加することがわかりました。しかし、年代別に見るとその傾向には差が見られました。
中性脂肪に関しては、全体的に健診数値が悪化すると発症率が増加する傾向が見られましたが、40代では数値による発症率の差があまり見られませんでした。しかし、50代や60代では中性脂肪の値が悪いほど発症率が高くなるため、加齢とともに症状が現れる原因の一つと考えられます。
一方、HbA1cについては、年代別に見たときに正常値の方と保健指導判定値の方の間に大きな発症率の差は見られませんでしたが、いずれの年代においても受診勧奨判定値の方の発症率が高いという結果が得られました。

 

 

■LDLコレステロール、収縮期血圧

 

本調査で認知機能障害の発症率との相関があまり確認できなかったのは、LDLコレステロールと収縮期血圧です。
LDLコレステロールでは、健診数値の悪化と発症率の増加との間に目立った相関は見られませんでした。
また、収縮期血圧については、健診数値の悪化に伴い発症率が増加する傾向が見られましたが、年代別に見ると必ずしもそうとは限らない結果となっています。諸外国では高血圧が認知症に繋がるという研究結果がある中で、今回の調査結果の背景には、国の違いによる文化や食習慣の差などが考えられます。

 

 

今回はレセプトデータと健康診断データを用いて、認知機能障害の発症率を調査しました。その結果、一般的な傾向と同様に、年代が上がるにつれて認知機能障害の発症率が増加することが確認されました。また、健康診断の数値と発症率の間にも相関が見られ、特に空腹時血糖、γ-GT、中性脂肪において顕著な傾向が現れました。

 

加齢とともに誰にでも訪れる認知機能障害のリスクですが、近年ではアンチエイジングや健康寿命の分野への関心が高まっており、認知機能の低下を抑える企業や自治体の取り組みが増加しています。また、食習慣や生活習慣の改善によって発症を抑えたり遅らせたりすることも可能です。日々の生活の中でできることを積み重ね、皆で協力し合うことで、将来的な認知機能障害のリスクを減らし、健康な未来を目指しましょう。

 

当社のメディカルビッグデータ「REZULT」については >>こちら

 

【関連情報】(本レポートは下記情報を参考にして作成されています)
厚生労働省 軽度認知障害
メディカルノート 認知機能障害について
厚生労働省 第4回健康増進に係る科学的な知見を踏まえた技術的事項に関するWG
AMED 全国8地域からなる大規模認知症コホート研究で糖代謝異常と海馬亜領域体積との関連を報告
健康づくりポータルサイト 14のリスク要因に対処することで認知症の約45%を予防または遅らせることができる!

  

本件レポート内容に関するお問い合わせ先
お問い合わせ – JAST Lab