【研究レポート】マイナ保険証によるオンライン資格確認の利用実態について

レポート

当社(日本システム技術株式会社 以下、JAST)では、独自に保有している匿名化済の診療報酬明細書(以下、レセプト)データを中心とした医療関連データを基に、調査を行っています。

2021年10月からマイナンバーカードを健康保険証の代わりに本人確認に利用できるようになりました。
健康保険証利用の登録済みのマイナンバーカード(以下、マイナ保険証)の提示と患者の同意を得ることで、医療機関は患者の過去の服薬履歴や特定健診などの情報を閲覧でき、正確な情報に基づいた総合的な診断や、重複服薬の抑制による医療費の削減などにつながることが期待されます。
他にも、窓口での限度額以上の医療費の一時支払いが不要となる、初診料・再診料の窓口負担額が低くなるなどのメリットがあります。

今回は制度開始後の利用実態を、マイナ保険証提示による加算がレセプトに算定されるようになった2022年4月から2023年3月診療までの12か月分のレセプトデータから調査します。

  

【集計条件】
調査対象: JASTの保有するレセプトデータ(約850万人 2023年6月時点)の内、2022年4月~2023年3月診療のデータ


 

 目次
 1 | 診療年月別
 2 | 利用者構成
 3 | 医療機関構成
 4 | マイナ保険証提示により削減できる医療費の予測

 

 1 | 診療年月別


マイナ保険証の利用実績が確認できた医療機関の割合と、利用している患者の割合を診療年月別に集計しました。
全医療機関に対するマイナ保険証の利用実績が確認できた医療機関の割合は2022年4月時点で約14%でしたが、2023年3月時点で40%近くとなり、着実に増えています。

それに対し、マイナ保険証の利用実績が確認できた医療機関で受診した患者の内、実際に利用している患者の割合は1.6%~2.9%程度となり、ほぼ横ばいでした。
デジタル庁の発表によると、人口に対するマイナ保険証の登録率は2023年3月26日時点で約45%となっています。
マイナポイントがもらえるキャンペーンなどによりマイナ保険証の登録者数は増えていますが、受診した医療機関がマイナ保険証に対応しているか分からない、マイナンバーカードを携行することへの懸念等の問題が発生しているのでしょうか。

    

【図1】診療年月別マイナ保険証利用割合

  

 2 | 利用者構成


次に、マイナ保険証を利用している患者の属性を調べました。
特に男性において10代以降、年齢が上がるにつれて利用割合が高くなる傾向がありました。

総務省が発表しているマイナンバーカードの人口に対する交付枚数率も、高齢者の方が高くなっています。
また、年齢が上がるほど医療機関を受診する頻度も高くなるため、マイナ保険証を提示するメリットなどについて知識があるのかもしれません。

自治体が主催する出張窓口のイベントなどで、学生や働き世代のマイナンバーカードの申請と健康保険証の利用登録に対するハードルを下げること、マイナ保険証を提示するメリットを周知することなどが利用率の向上につながりそうです。

    

【図2】性年代別マイナ保険証利用割合

3 | 医療機関構成


続いて、マイナ保険証の利用実績が確認できた医療機関の詳細について調べました。
都道府県ごとに医療機関の割合をみたところ、富山が最も高く、51.8%でした。他には、青森・岩手・宮城・秋田・山形の東北地方の5県はどこも46%を超え、高い値となっています。

また、最もマイナ保険証を利用できる医療機関の割合が低い都道府県は東京となり、その近くの千葉・神奈川も割合は低くなっています。
首都圏以外では沖縄も33%に届かない結果となりました。

  

【図3】都道府県別マイナ保険証利用実績が確認できた医療機関割合

施設種別ごとにみると、医科(DPCを含む)が30.6%、歯科が22.1%、調剤が69.9%でした。
調剤薬局ではシステムの導入が医療機関よりも進んでおり、全体の普及率を押し上げているようです。


【図4】施設種別マイナ保険証利用実績が確認できた医療機関割合

  

厚生労働省は医療機関に対し、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるシステムの導入を原則として義務化しており2023年9月末までの導入完了を目指しています。

 4 | マイナ保険証提示により削減できる医療費の予測


マイナ保険証を提示すると、提示しない時に比べ初診料・再診料の窓口負担額が低くなります。
一人当たり年間受診回数の平均から、一年間でマイナ保険証を提示することにより削減できる医療費を概算してみました。

年齢によってばらつきはありますが、平均して患者一人当たり年約290円医療費を削減できる予測です。
一人当たりの削減額は少なくても、マイナ保険証を提示する人が増えることで大きな医療費抑制効果が得られます。
医療保険料の抑制の観点からも保険者や医療機関からマイナ保険証の登録・提示を促すことが重要です。

  

【図5】年代別マイナ保険証提示により削減可能な医療費の予測値

今回はレセプトデータからマイナ保険証によるオンライン資格確認の実態を調査しました。
マイナ保険証に対応する医療機関は着実に増加し、2023年9月末までの導入完了を目指していますが、実際に利用している患者は3%未満とまだかなり少ないようです。
マイナ保険証を提示することのメリットをより多くの方に知ってもらうとともに、安心して利用できる社会にしていく必要があります。

また、医療保険情報取得API等の情報提供サービスも開始されており、マイナ保険証の普及・利用が適切な医療につながるのかも含め、今後も注目していきたいと思います。

JASTでは、データヘルス計画の策定支援や事業実施支援の一環として、特定健診の受診勧奨通知や重症化予防事業などのサービスを行っています。
他にも、約850万人分の匿名加工済みのレセプト・健診データ等の医療リアルワールドデータの分析や販売を行っております。

気になる点、詳しく知りたい点などがございましたら、下記アドレスまでお気軽にお問い合わせください。 

本件レポート内容に関するお問い合わせ先
 E-mail:rezult@jast.co.jp

  

  

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