日本システム技術株式会社(以下、JAST)では、独自に保有している匿名化済の診療報酬明細書(以下、レセプト)データを中心とした医療関連データを基に、調査・分析を行っています。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、私たちの生活や行動様式は大きく変化しています。特に昨年4月に初めて発令された緊急事態宣言中は外出の自粛が求められ社会や経済に様々なインパクトを与えました。
今回の調査では新型コロナウイルスの感染拡大による社会の変化を医療の受診行動にスポットをあて、結果を紹介をします。
<調査対象>
JASTの保有するレセプトデータ(約853万人 2021年8月時点)の内、2019年3月~2021年2月(24ヵ月間)のデータ。
目次
1 | 全体
2 | 男女別、年齢別
3 | 高額医療費(50万円以上)
1.全体
まずは全体の受診人数、受診日数、医療費、レセプト件数の前年同月比の推移を見ていきます。
全体の傾向としまして、第1回目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言(以下 緊急事態宣言)が発令された4、5月に大きな減少が見られます。その後、10月まで回復傾向が続き、10月の医療費は前年同月比100%を超えています。
しかし、2020年11月から2021年1月にかけての新型コロナウイルス感染者数急増に伴い、2021年1月の緊急事態宣言よりも早い段階で受診傾向の減少が見られ、自発的に医療機関への受診を控えた様子が伺えます。
【図1】受診人数・受診日数・医療費・レセプト件数別の前年同月比と感染者数 (全体)
【感染者数参照サイト】
新型コロナウイルス日本国内の感染者数・死者数・重症者数データ|NHK特設サイト
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/
2 | 男女別、年代別
次に男女別、年齢別(0-19歳、20-39歳、40-59歳、60歳以上)の傾向をそれぞれ見ていきます。
男女別で見た場合、第1回目の緊急事態宣言期間中に女性が受診を控える傾向が見られましたが、緊急事態宣言終了後(6月以降)は男女間で受診行動に大きな差異は見られない結果となりました。
年齢別で見た場合、若年層(0-19歳)の受診が最も顕著に減少しており、年齢が上がるにつれて新型コロナウィルスの影響が少なくなる傾向が見られました。
【図2】受診人数・受診日数・医療費・レセプト件数別の前年同月比 (男女別)
【図3】受診人数・受診日数・医療費・レセプト件数別の前年同月比(年齢別)
3 | 高額医療費(50万円以上)
最後に1レセプトあたりの医療費を50万円以上(高額)と50万円未満(非高額)で区切った医療費別の傾向を見ていきます。
調査期間において1レセプトあたりの医療費が50万円未満(非高額)の方が大きく減少している傾向が見られました。
医療費が50万円未満のケースでは比較的軽度な症状が多く含まれており、受診タイミングを調整したり、受診を控えるなどの対応が取られた可能性が考えられます。
医療費が高額になりやすい、がんや脳梗塞、心筋梗塞といった緊急性の高い受診・治療については、新型コロナウィルスによる受診行動への影響が比較的小さかったことが考えられます。
【図4】受診人数・受診日数・医療費・レセプト件数別の前年同月比 (高額非高額医療費別)
受診行動は第1回目の緊急事態宣言中に大きく落ち込み、その後10月まで回復傾向が継続し10月時点で昨年並みに回復しました。しかし、国内の感染者数の増加に伴い11月以降に再び受診行動の減少傾向が続いています。
本コラムでは分析期間を2021年2月までとしていますが、その後の緊急事態宣言や感染者数の増加が受診行動に与える影響を、今後も注視してまいります。
本件に関するお問い合わせ先
担当者:平井 雅人
E-mail:m.hirai@jast.co.jp